1.HIP処理 とは   HIP:Hot Isostatic Pressing

○定義・方策

 ・金属体を気体(*)を接触媒体として高温,高圧力に保つ。

   (*)主として アルゴン

    温度t:600〜2000℃→目標0.8Tm(Tmは融点の絶対温度表示),圧力P:100〜2000気圧

    挿入重量W:0.1〜10トン/1炉・ヒート,処理時間H:1〜10時間(挿入量および炉容量に関係する)

○目的・効果

 ・金属体内の空洞・空疎・疵は滅失し、空孔濃度熱力学的平衡量に達する。

2.気体および固体(金属)のHIP処理に係わる態様

(1)気体の態様 

○熱力学の観点から

 ・理想気体の状態方程式はT式。  (理想気体の主たる例 アルゴン)

   T式:PV=nRT 

    V:体積,T:絶対温度,n:モル数,R:気体定数。

 ○分子運動論の観点から

 ・圧力Pは気体分子の併進運動に依る。圧力伝播は分子同士および器壁との衝突で生じる運動量交換に依る。

    圧力は等方圧(3次元等ベクトル)で伝播する。

 ・気体分子は固体の表面原子と衝突し、固体内に等価の応力を生起させる。        

    圧力と応力は固体外表の真表面で垂直に作用する。

○化学反応の観点から

 ・金属に対し非溶解。化学的に安定,不活性。

(2)金属の態様

○熱力学・平衡論の観点から

 ・気相P,T中の固体金属の状態方程式はU式。 Gruneisenの式

    U式:PV+G=E(V)・γ

   G:ポテンシャルエネルギー,E(V):原子の振動エネルギー(定積比熱関与部分),γ:Gruneisenのパラメータ

   金属内の応力と応力伝播は原子の3次元調和振動に依る。

 ・気相P,T中の金属結晶粒には濃度の空孔(原子空位の結晶格子点・点欠陥)がV式で規定される。

    V式:C=A・exp【−[(E(B)−σΩ)/RT]】       

    A:定数(n,アボガドロ数,他),E(B):空孔形成エネルギー,σ:応力(=圧力P),Ω:空孔体積

    −単一の空孔が濃度Cで一様に分散した状態−が熱力学的に安定

    結晶粒内の空孔は気相自由体積と平衡し、粒外への排出と粒内への導入は粒表面を経由してなされる。

 ・t,P,H保持した結晶内では、線状,面状,積層欠陥は単一の空孔に分解し、空孔はでC濃度で一様分散する。

○質量移動の観点から

 ・等方圧下の金属内では、金属原子(金属質量)の移動は空孔の拡散のみでなされる。

 ・空孔拡散の駆動ボテンシャルは空孔の濃度勾配に依る。空孔の濃度はV式で規定される。

 ・空孔の拡散係数はW式で規定される。

    W式:D(P)=D・exp【−[(Q(0)+σV)/RT]】 

     D(P):頻度因子atP,D(0):頻度因子atP=0,Q(0):活性化エネルギーatP=0,ΔV:活性化体積 σ:応力

 ・空孔の拡散速度は表面拡散>粒界拡散>体拡散(=粒内拡散)である。

○金属組織論の観点から

 ・空孔が関係する回復・再結晶(0.3〜0.5Tm)とクリーブ(0.5Tm〜)が、全ての金属で一義的に発現する

    回復・再結晶−加工組織の解消−転位の粒外排出−刃状転位の上昇運動−空孔の吸収が起こる。

    クリープ−引張応力下での空孔の移動,集積(=空洞発生)が起こる。(=等価である)

3.HIP処理される金属体の挙動  t,P,Hの保持において

○熱力学・平衡論の観点から

 ・金属体は等方圧力Pによって体積を縮小し自由エネルギ−を最小化する。    

    金属体内の非通気状態で負圧の欠陥空洞は滅失(空孔に分解・分散)し、空孔濃度はCに達する。

    空孔は結晶粒内と結晶粒界を拡散し、金属体表面で排出・導入されて気相と平衡する。

○質量移動・金属組織論の観点から

 ・金属体表面での垂直応力により金属体は中心方向に巨視的に圧縮される。

    金属体内の空洞では、空洞壁の真表面に垂直の圧縮応力が働く。

 ・空胴滅失の素過程は、空洞→空孔に分解と分散,過剰分の金属体外への排出-でなる。

    空洞の空孔に分解・分散=空洞への原子(金属質量)の膨出=空洞滅失(=等価である)

 ・空洞滅失は-空孔の体外排出-が最終過程なので、金属体の表層から中心部へ階層的に進行する。

    空洞滅失は表面からの深さと径で律速され、WとHには直接関係しない。

 ・t=0.8Tm,P,H保持後、粒界は精整され,欠陥・空洞は滅失する。金属体の空孔濃度はCに達する。

    t=0.3Tm〜0.5Tmで冷間加工層の回復・再結晶現象(発熱を伴う)−空洞滅失−が先発する。

    t=0.5Tm〜0.8Tmで等方圧圧縮応力下逆クリーブ現象−空洞滅失−がおこる。

4.解説・ガラス媒体HIP処理

(1)ガラス媒体HIP処理とは 

○定義・方策 

 ・金属体(*1)をガラスを接触媒体(*2)としてt,P,Hで保持する。t,Pは気体によってガラスに伝播される。 

   (*1)開放孔がある金属体(and/or)合わせ目のある金属部材固着体を特徴とする。

    (*2)予め、金属体はガラス浴中に浸漬して冷却し、ガラス固化体で包摂して接触させる。

    t<0.8Tm,ガラス固化体状態(η>103Pa・s)で圧力(P)をかける-固化体加圧-を行う。            

    t=0.8Tm,ガラス溶融体浴中(η≦103Pa・s)で圧力(P)をかける-溶融体加圧-を行う。

○目的・効果

 ・固化体加圧→開放孔の孔口や合わせ目の隙間の開口をHIP処理の初期的段階で閉塞する

 ・溶融体加圧(浴中保持)→ガラスの侵入を防止し、t=0.8Tm,P,HのHIP処理を完遂する

(2)ガラス媒体HIP処理に係わるガラスの態様     

○熱力学・分子運動論の観点から  鉛ガラス(主たる例)

 ・気相P,Tと接する液体の状態方程式はX式。 Tammannの式 (1000気圧以上でよく近似)

    X式:(P+B)(V−V)=CT

    B:内部圧,V:圧力無限大に外挿した時の体積,C:液体の性質に依存する定数      

 ・ガラス溶融体の圧力は鎖状分子の振動に依る。圧力伝播は分子振動の衝突で生じる運動量交換に依る。            

 ・振動するガラス分子が金属外表の金属原子に衝突し、圧力(and)温度を伝播する。

○ガラスの流動性の観点から

 ・ガラスの流動性(粘性係数)ηはTに対して1012〜102Pa・sで変化する。ηとTの関係はY式で近似される。           

    Y式:η=η0exp(F)/RT)

     (F):流動活性化エネルギ−

 ・ガラス固化体とガラス溶融体はη=103Pa・sで区別される。

    (参)η=105Pa・s→成形操作の目安

       η=103Pa・s→種取点、巻取りに適している

       η=102Pa・s→溶融点、泡切れを起こす

       η=80・10-6Pa・s→Arの1000℃,1000気圧での流動性

 ・粘性流体の毛細管中の動態はZ式による。  Poiseuillの式                              

    Z式: V/H=(P−P)πa4/8Lη

     P:空洞内圧,π:円周率,a:毛細管の半径,L:毛細管の長さ

 ○化学反応性について

 ・長大鎖状珪酸分子(陰イオン)+金属イオン(陽イオン)の構造。 金属とガラスは化学平衡する。

(3)ガラス媒体HIP処理に於けるガラスの動作

○固化体加圧 t=0.3Tm〜0.8Tm 1012>η>103Pa・s  P>100気圧             

 ・ガラスが金属体真表面の頂部と接触して圧力を伝播し、接触部の金属質量は流動し沈下する。

 ・ガラスと金属体が形成する負圧の構成亜空洞(*)で壁と底が膨出する。

    (*)ガラス表面と金属体真表面の谷(and/or)穴で形成される半無限長深さの空間

 ・構成亜空洞へのガラス浸透速度はY式によるので、高ηで膨出がバランスして一定時間で閉塞する。                

○溶融体時加圧 t=0.8Tm            η≦103Pa・s  P>1000気圧 

 ・ガラス浴中複数個多数個)の金属体に温度tと等方圧Pを伝播する。

(4)予備的閉口処理

○予備的閉口処理の考え方

 ・ガラスの開放孔や隙間への浸透速度はY式によるので、細径化ガラス浸透速度低減に有効。

 ・金属体の開放孔の孔口径と合わせ目の開口巾の一般的水準。

    孔口径→通常・公知の冶金製造技術で<10μ。                     

    開口巾→通常・公知の機械工作(and)固着技術で<10μ。            

○予備的閉口処理の方策と効果 

 ・方策→開放孔のある金属体(and/or)金属部材固着体に冷間で圧下加工(ショットなど)をする。

    金属体外表層の金属質量が塑性流動して沈下する。    

 ・効果→孔や合わせ目の口縁部や壁が膨出する現象が一意的に発現する。                       

    金属体外表で孔口径や隙間の巾が〜0.1μ(*)に網羅的に細径化される。

    (*)0.1μ巾は有機溶媒の浸透限界(圧力差0において)=気体透過(and)ガラス不浸透境界

    被加工層に歪エネルギーを蓄積し、固化体加圧時に先発的昇温の熱源となる。

    加工組織層中(and/or)近傍の空洞滅失が昇温で促進される。

                                                      以上